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MECの次世代統合型CPU「88-Engine」の正体




●過去の8bit機の資産を受け継ぐために生まれた88-Engine

 近日発売され、話題になったPC-880lmkUSP。この製品に搭載された統合型CPU「88-Engine」が今注目を集めている。 何しろ、WindowsにIA32アーキテクチャというこの時代にあって、何故今更8bitのアーキテクチャ製品の為に統合型CPUを設計したのか。 また、自社製品に搭載して売れているとは言え、自社の最新Fabで大量生産を開始した意図と戦略はどこにあるのか。 その辺りをCPUの性能と特徴から推測してみると、意外なMECの戦略が見えてくる。


この統合型CPUには以下の様な特徴がある。
  • V8800+コア(RISC)
  • キャッシュ容量 64K(L1)、256KBytes(L2)
  • コアクロック 最大1.2GHz
  • Z80コアマルチプロセッシング機能
  • 64bitDSP(VHE機能搭載)

 最大のポイントは、内部的には8bitのZ80コアでは無く、同社のVシリーズRISCアーキテクチャを用いて、仮想的に複数のZ80として振る舞わせているに過ぎない点だ。 これは、TransmetaのCrusoeと思想的には同じで、別段珍しくはないのだが、同社のCPUとしてはおそらく初の試みである。

 現在、88-Engineで実行出来る命令セットは、V8800+のネイティブ命令以外には、このZ80だけだが、CPUコア内蔵FlashMemoryに格納される変換ソフトの書き換えによって、様々なCPUのエミュレーションが可能となっている。 この辺りの思想もCrusoeのコードモーフィングソフトと同様だが、ファームレベルに搭載されると言う点が異なり、外部メモリを持たない構成が可能な本チップの制限と言いかえる事も出来る。



●信号線の内容すらファームで変更可能なハードウェアエミュレーションVHE

 このCPUの特徴の2つ目のポイントは、ハードウェア版のコードモーフィングとも言える、内蔵64bitDSPによるハードウェアエミュレーション機能(VHE)である。

 VHEとはVirtual Hardware Emulationの略で、その名の通り、ハードウェアをDSPを用いて信号レベルでエミュレーションする。音声等などの低い周波数領域では意外に古くから実現されているアイデアで、PC上ではIBMのM-Waveという、音声やモデムをエミュレーションするアイデアが存在したのは記憶に新しい。

 しかし、本チップのVHE機能は、より高周波であるだけでなく、CPUから出力される約40本の信号線が、このVHE機能用に内蔵DSPコアへ直接結線されており、DSP側のプログラムによって、電圧を含めた信号線のプロトコルを自在に操れる点が新しい。 このアイデアによって、88-Engineは様々な別のチップに、ハードウェアレベルで「変身」する事が可能で、少なくともPC-880lmkUSPでは、PIO(8255)やSIO(8251)を介する既存周辺機器の直接接続(コネクタの変換のみ)と、スマートメディアの直接制御(CPUからは5インチFDDとして見える)を実現していると言う。

 かなり斬新なアイデアだが、勿論問題が無いわけではない。信号線の内容まで変わってしまうしまうとなると、ファームのアップデートによって、最悪の場合、ハードウェアが破損してしまう恐れもある。 この問題を解決するため、MECでは、これらファームの内容も含めてチップの型番として定義しており、ファーム用のプログラムの暗号化キーと型番が一致していないとアップデートできない様になっているそうだ。

88Engineのブロック図 PC-880lmkUSPに搭載された88-Engine。μPD789002ACとシルク印刷されている。

 ちなみに、PC-880lmkUSPに搭載されるチップの型番はμPD789002ACと名付けられており、PC-880lFAに搭載される2つのZ80CPU+周辺ハードウェアの仮想構成になっていると言う。 メインメモリが64KBytesしかない8bitマシンであれば、このCPU内蔵のキャッシュメモリのみで動作できるため、PC-880lmkUSPの様なソリューションには好都合なわけだ。

 とは言え、チップコアが全く同じでも搭載されるファームウェアによって製品型番が異なるというのは前代未聞の事態である。 一時期、インテルがPentiumUコアからキャッシュ機能を無効にして、Celeronとして出荷した事はあったものの、これはハード的には互換があり、速度とクロックが異なる程度の差異。 同一形状ながらピン配置すら変幻自在なこのチップの出現は、かなり特殊なケースと言える。

 実は、この様なチップが計画された背景には、PLDの性能が飛躍的に上がり、かなり複雑なロジックまで比較的小規模な投資で簡単に作れてしまう時代になった事が大きな要因だろう。 少量多品種の、比較的小規模なソリューションに最適とは言うものの、DRAMはおろか、ASIC事業の採算性も厳しくなった半導体部門の苦しい台所事情から生み出されたと言うのが、本音ではあるまいか。



●いずれ携帯電話への搭載も

 88SPを始め、3倍速い動作を実現したmodelCHに続き、66SPも発表され、その可能性を次々にアピールする88-Engineだが、MECによると、ロードマップこそ提示されなかったが、既に次世代版の予定もあるらしい。 98Engineと呼ばれるそのチップは、線幅0.13μmで製造(88-Engineは0.18μm)され、コアは1.5V以下で駆動し、最高クロックは2.4GHzに達する見込みと言う。

 来年の第一四半期にはリードアウトする98Engineは、主に携帯電話への搭載を想定しており、Javaアプレットのネイティブ実行を始め、キャリアや世代によって異なってるハードウェアの仕様を、チップレベルで吸収し、 上位に載るアプリケーションソフトの共通化やハードウェアの共用化をより一層進める事で、開発スパンの更なる短縮化と生産性の向上が期待できると言う。  ネーミングからして、筆者は98SPを発売する予定があるのでは? と問いて見たが、98HAという前例がありますから難しいと思いますと、はぐらかされてしまった。とにかく次世代チップには明るい未来が待っている事を期待しよう。

□関連記事
【4月10日】MEC、PC-660lSPを発表
http://macots.hp.infoseek.co.jp/pc88/pc66sp.html

(2003年4月10日)

[Reported by macotz]


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